北條 里恵:ほうじょう さとえ
わが子との歩みは、二十一時間を超える難産から始まりました。名づけた名前は「阿弥陀さまのお慈悲の声」を意味する慈音(じおん)―。しかし、現実は、わが子が私に挑戦状をたたき付けているような「戦い」の連続でした。
生存のすべてを担う
育児書通りに行くことはありません。寝ないし、食べないし、動きません。六カ月検診で「少し発育が遅れている」と言われ、「育て方が悪い」と指摘されたこともあります。私は「ごめんね、慈音くん、こんな私が母親で…」と挫けるばかりでした。一年が過ぎた頃、「脳性マヒ」の診断が下りました。障害が判明することと、状況が改善されることは別物です。三歳を越えるまでは睡眠障害が続き、二、三時間ひたすら、朦朧としながらも泣き続ける慈音を、抱き続けるしかありませんでした。
それでも、少しずつ障害の実相のようなものがわかるようになってきました。「寝ない」のではなく「寝られない」、「食べない」のではなく「食べられない」という現実を、慈音は生きるしかないのです。「その現実を、共に引き受けよう」。それが、母親として、私の唯一の覚悟でした。介助者として、食事も、睡眠も、トイレ・お風呂まで、つねに一緒。慈音の生存に関わるすべてを担いました。でも、その日常がお互いを深く理解する時間でもありました。
慈音は、重度の脳性マヒアテトーゼ型で、一つの姿勢でいることが一番の苦手なんです。だから、イスに座って食事をすることがとてつもない苦痛を伴います。だから、後ろから抱きかかえて座り、食べさていました。目と目を合わせる事は出来ませんが、一緒にテレビを観ながら「対話」をします。慈音の趣味嗜好は、アニメ、お笑い、特撮モノ、サスペンスに古代文明……と、結構多岐に渡り、身体的にはキツイけど、とても楽しい食事時間でした。慈音は、足の動きが一番良くて、たくさんのサインを考案したり、文字盤を使ったりして、ウイットに富んだ「発言」をします。
慈音が大きくなってくると、「このシーンで、こいつ(私のこと)は泣くゾ!」というのが分かって、足でティッシュをつまみ、ピッと取って、渡してくれるんです。私は「悪いね」って言って、涙を拭き、鼻水を咬むんです。なんか、すごく幸せですよね。
全介助を引き受けているからといって、すべての時間を慈音にだけ奉げるというわけにはいきません。彼は彼なりに不本意だったり、不満足であったりしても譲歩しなければならないこともたくさんあったと思います。でも、積み重ねた時間が、共に暮らし、互いに認め合い、許し合い受け入れるということを可能にしてくれたと思います。
医療ケアが必須条件
ところが、そういう状態でなくなったのが、三年前の心肺停止からでした。
慈音が高校二年の夏のこと、食べ物が詰まり、呼吸が停まりました。「周りは真っ青になり動転しても、本人は一瞬、フッとなってそれ以上の苦しみはなかった」って、後日、長年診てもらってきたドクターが慰めてくれました。
大学病院に入院した二ヶ月間で人工呼吸器がはずれ、気道の確保のために気管切開をしました。その後、在宅での医療ケアを転院先の病院に母子で三週間弱泊まり込み、超特急で教えていただきました。
あの三ヶ月間は本当に奇妙な時間でした。「いのち助かってよかったね、慈音くん、やっぱり強いねぇ」と喜んでくださる周囲の声とは裏腹に、私には慈音の失くしたものの大きさがショックでしたし、それ以上の何かがありました。
それまでは「慈音の生存のすべてを担っている」という母親の自我が、まったく役に立たないと思い知らされました。それまで縁遠かった医療ケアが、慈音の生存の必須条件になり、私はなんの手出しも出来ませんでした。見ず知らずの看護師さんが手際よく慈音に必要なことを片付けていく様は衝撃でした。母であっても無力って現実を認めるのは辛かったです。二十四時間の医療が確約されている病院を離れ、自宅での日常を確立するまでは、本当に難儀の連続でした。血中酸素濃度と心拍数をモニタリングしているのですが、排痰マッサージが間に合わずに警告音、筋肉の硬直が強まりすぎて警告音、遥か彼方の海上に台風が発生しても警告音が鳴りました。モニターの数字を頼りに酸素の流量を調節しながら、「私、素人なんだけど…」とつぶやいていました。栄養剤の注入は日に三回ですが、気管や鼻腔からの吸引は頻回で昼夜を問いません。洗面、洗顔、洗髪、清拭、体位交換などもすべて床上で行いますし、これで熱が出たり、関節が腫れたりすれば、、ほぼ二十四時間ベッドサイドにへばりつきでした。
余裕が生まれた頃
帰宅当初から慈音の在宅医療ケアを支えてくれている訪問医療スタッフの存在なくして、慈音の命の継続はなかったと思います。神経も体力も消耗する日々を、それぞれの専門性を通して助けて下さいました。我が家には、ドクターやナースだけでなく、歯医者さんやリハビリも視野入れたマッサージの先生、薬を配達してくれる薬剤師さんが来てくれます。恵まれた体制を得られたことが、慈音のみならず家族みんなの心身の安定につながっていると思います。
今では気管切開術で開いた喉の穴に装着するカニューレという器具の交換や、経鼻栄養のチューブの交換もひとりで出来るようになりました。チューブは、鼻の穴から胃まで五十七㎝挿入します。
そんな余裕が生まれたところで、私は病気になりました。
慈音の受診で伺った外来で「お母さん病院行ってね」って言われたけれど、まだ大丈夫だって思っていたんです。でも、結局はケアが至らず慈音が肺炎を起こしかけてしまい、自分が限界を越えていると知らされました。今年の四月に浮腫みと貧血で受診して、深部静脈血栓、肺塞栓症、子宮筋腫と診断されました。今は真面目に薬も飲んで、日常に支障はありません。
思い返せば凄まじい日々でしたが、すべてを喪失したような慈音のなかに、微かに、でも確かに宿っている本質を見出しながら暮らしてきたように感じます。慈音が三、四歳の頃、保育園のお誕生会で「お子さんのいいところは?」と訊ねられて、「生まれてきてくれたことです」と答え、先生が拍手してくれたのを覚えていますが、あの時の気持ちは、今も変わりはありません。この十月、慈音は満二十歳になります。おかげさまですね、本当に。(談)
北條里恵プロフィール;ほうじょうさとえ
1963年12月2日、東京都杉並区生まれ。
和光大学人文学部人間関係学科卒業。
1993年3月9日、蓮向寺住職・音楽家 北條不可思と結婚。
翌年10月18日、慈音誕生。蓮向寺坊守。
PRESS/MAGAZINE scrap 【北條不可思/音楽表現活動メディア紹介】
★Produced&Edited by OfficeAmitaHouse★
Author:Song&BowzuMan
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《心に慈慧の響きと平安を》
❝Song & BowzuMan❞
since 1981
縁絆&野聖物語
メッセージコンサート~1996
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since 1996
縁絆・野聖 Endlesstour
眞信讃歌 18minutes
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*
北條不可思【愚螺牛・華思依】
ほうじょうふかし
【ぐらぎゅう・かしい】
法名/釋難思(しゃくなんし)
広島県出身【三次生まれ呉育ち】
1961年10月14日生
浄土真宗本願寺派・僧侶
シンガー・ソングライター
得度
1981年10月15日
(法名・釋難思/シャク ナンシ)
浄土真宗本願寺派
(本山・西本願寺)
http://www.hongwanji.or.jp/
浄土真宗本願寺派
東京首都圏都市開教専従主管
(1986~2005)
:西本願寺相模原布教所:
(築地本願寺内)
http://tsukijihongwanji.jp/
浄土真宗本願寺派・
眞信山蓮向寺住職(1991~)
http://renkoji.org/
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FUKASHI guragyu HOJO
Shaku Nanshi(Priest Name)
【Born】
October 14, 1961
Hiroshima, JAPAN.
【Years active】
1981-modern times
Song&BowzuMan
singer-song writer
Priest(Shin-Buddhism,
Pure Land Buddhism)
JODO SHINSHU
HONGWANJI-HA
NISHIHONGWANJI:KYOTO
https://www.hongwanji.or.jp
/english/activity/index.html
TSUKIJIHONGWANJI:TOKYO
💎SHINRAN-SHONIN💎
(1173 – 1263)
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{本願を信じ念仏申さば仏に成る}
{歎異抄}第十二条
― 善人なほもつて往生をとぐ、
いはんや悪人をや。―
{歎異抄}第三条
おかげさまは
ありがとうの生みの親
{信心正因 称名報恩}
この逆謗の穢愚身
唯今ここに
帰命尽十方無碍光如来
合掌称佛
NAMOWAMIDABUCHI
北條不可思
(釋難思)
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